狂気の無限ループ

[以下は、ミクシィ内コミュニティ夢野久作に投稿した原稿の再録です。]



ドグラ・マグラ』は読み終えた時点で、『ドグラ・マグラ』が始まるように出来ている。つまり、読者は『ドグラ・マグラ』という無限のループを、永遠に回転するしかないのである。
しかも、この永遠に続く円環には、ねじれがあって、メビウスの環か、クラインの壷のようになっている。精神病院の内側と外側が、絶え間なく入れ替わり、最後に読者は自分が立っている場所がどちら側なのか、不安に駆られ始めるのである。
その不安は、『ドグラ・マグラ』の中に押しとどめることはできない。
人は『ドグラ・マグラ』を読み終え、あたりを見回し、街を歩いている人間が、実は解放療法を施されている精神病患者なのではないかと疑念を抱くようになるのである。
ここで、『ドグラ・マグラ』の毒性を、さらに過剰なものにしてみよう。名づけて、狂気の回路である。『ドグラ・マグラ』の様々なヴァージョンを並べる。講談社文庫版、教養文庫版、角川文庫版、ちくま文庫版、創元推理文庫版……そして、○○文庫版の『ドグラ・マグラ』を読み終えた瞬間に、××文庫版の『ドグラ・マグラ』が始まると仮定し、それを読了した瞬間に、別の文庫がスタートすることにする。そして、最後に○○文庫版の『ドグラ・マグラ』が再び始まるとする。
なんだか、恐ろしいことが起きそうな気がするではないか。勇気のある方はお試しあれ。ただし、どうなっても、当方は責任を負いかねるので、念のため。