カール・ヤスパースについて

文庫で読めるカール・ヤスパースの本というと、『哲学入門』(草薙正夫訳、新潮文庫)があるが、これにしても最近、品切れ状態のようである。
ヤスパースは、ドイツのキリスト教実存主義者。とはいえ、彼の哲学は、「哲学すること」の基本的なあり方を明かすものであり(彼はわれわれが「限界状況」に直面することが、「哲学すること」の契機になるという)、思想の流行がどうであろうと、基本中の基本として残されるへきものと思うが、しかしながら、現在、文庫で読むことは困難である。(ただし、平凡社ライプラリ版(橋本文夫訳)で『戦争の罪を問う』を読むことができる。)
ところで、かつて出ていたヤスパース文庫には、創元社の創元文庫というものがあった。
創元文庫版では、以前から『ニーチェの根本思想』(昭和28年刊行、草薙正夫訳)というのを入手していた。これと、現在は絶版になっている新潮文庫の『ニーチェの生活』(昭和29年刊行、草薙正夫訳)というのを入手することに成功していたため、ヤスパース著『ニーチェ』の第一巻『ニーチェの生活』とと、第二巻『ニーチェの根本思想』が揃っていたことになる。あとは第三巻『ニーチェの実存全体における彼の思惟方法』が『ニーチェの実存的意義』という表題で新潮文庫から出ていたはずなので、これを入手できればコンプリートできたことになるはずである。
ヤスパースの『ニーチェ』は、ドゥルーズの『ニーチェと哲学』以前において、ニーチェ思想の全体を、体系的な哲学として捉えようとした点で重要である。(ニーチェを断片的に捕らえようとする試みは、多々あったが。)また、ハイデッガーの『ニーチェ』のように、ニーチェニヒリズム=故郷喪失として、自分が問われるべきファシズムの責任をニーチェに擦り付けようとする悪辣な意図もなく、公正で、パランスが取れた見方をしていたといえる。
現在、まだ『ニーチェの実存的意義』の入手には成功していないが、『哲学十二講』(昭和28年刊行、草薙正夫訳、創元文庫)と『理性と実存』(昭和26年刊行、草薙正夫訳、創元文庫)を入手することができた。
しかし、購入後、気づいたことだが『哲学十二講』は、『哲学入門』と同一である。『理性と実存』は、理想社版の全集で既読であるが、持ち運びに便利なので入手した……が、『哲学十二講』も『理性と実存』も状態が良くなく、太陽光線で紙が変色しており、ページをめくるたびにぽろぽろと粉末状になって落ちてくるのだ。そのせいか、手が痒くなる。
やはり、古書とはいえ、古いにも限度があるということなのだろうか。

この機会に、現在絶版のヤスパースの文庫を紹介しておこう。
◆『哲学十二講』
ヤスパアス著(表記がヤスパースとはなっていません。)
草薙正夫訳
創元社、創元文庫D−40
昭和27年10月10日初版発行
今回、入手したのは、昭和28年刊行の第三版。
ヤスパースの写真が冒頭ページにあり。
内容は『哲学入門』(新潮文庫)と同一。
◆『理性と實存』
ヤスパアス著(表記がヤスパースとはなっていません。)
草薙正夫訳
創元社、創元文庫D−5
昭和26年10月25日初版発行
今回、入手したのは、初版。
ヤスパースの写真が冒頭ページにあり。
◆『ニーチェの根本思想』
ヤスパアス著(表記がヤスパースとはなっていません。)
草薙正夫訳
創元社、創元文庫D−65
昭和28年9月30日初版発行
入手しているものは、初版。
ヤスパースの写真が冒頭ページにあり。
ヤスパース著『ニーチェ』第二部にあたる部分。
◆『ニーチェの生活』
ヤスパース
草薙正夫訳
新潮社、新潮文庫
昭和29年11月30日初版発行。
入手しているものは、初版。
ヤスパース著『ニーチェ』第一部にあたる部分。
◆その他(以下の文庫は、未入手です。)
創元文庫の巻末の目録に『戦争の罪』(橋本文夫訳、D−47)の記載あり。
新潮文庫から、『ニーチェ』第二部にあたる『ニーチェの根本思想』、『ニーチェ』第三部「ニーチェの実存全体における彼の思惟方法」にあたる『ニーチェの實存的意義』が刊行された可能性あり。(新潮文庫版『ニーチェの生活』の巻末解説に、刊行計画が書かれている。)