雨宮処凛『悪の枢軸を訪ねて』

雨宮処凛の初の文庫です。北朝鮮イラクへの訪問記です。
雨宮処凛は、いじめられっこで、自傷系。ビジュアル系の追っかけを経て、球体人形づくりへ。されど「アトピーの女王」ゆえに、人形づくりを断念。民族派右翼に覚醒。ミニスカ右翼となる。ドキュメンタリー映画「新しい神様」の主役となり、そのときの経験をもとに『生き地獄天国』を上梓。作家への転進を図る。『悪の枢軸を訪ねて』『戦場へ行こう!』のようなルポを基にしたノンフィクション作品と、『暴力恋愛』『EXIT』『ともだち刑』のようなフィクション作品がある。近年は映画『PEEP"TV"SHOW』の脚本を担当。
雨宮処凛は、次々と変貌を遂げてゆく作家であるが、それは実存的に、真摯に物事にぶつかる本物の作家だからである。その世界はまだまだ発展途上であるが、その文体は将来ものすごい作品を生み出す可能性があると思う。9・11のテロとゴスロリ自傷系の若者たちを扱った『PEEP"TV"SHOW』では、すでに現実と虚構が交錯する世界を描いている。雨宮は、次第にノンフィクションとフィクションがクロスオーバーする世界を描くようになって来ている。
政治的には、正反対の私が雨宮を評価するのは、雨宮は現在生きている人々の立場に立つからである。例えば、本書でも雨宮は、人々の幸福と民族主義が対立するとき、躊躇なく人々の幸福を最優先に選ぶ。また、雨宮が反戦を唱えるのも、実際に生きている人への友情のためだ。この友情は、理念としての友愛ではなく、現実の、一般化できない固有のものである。雨宮が理屈ではなく、生(なま)の人生に立脚する限り、選択を間違えることはないだろう。

悪の枢軸を訪ねて (幻冬舎文庫)

悪の枢軸を訪ねて (幻冬舎文庫)