アレクセイの花園 http://8010.teacup.com/aleksey/bbs に、「幻視のリレーを引き継ぐものは?」を投稿。

以下は、その原文。
埴谷雄高著『幻視の詩学〜わたしのなかの詩と詩人』(思潮社・詩の森文庫)の解説は、齋藤慎爾さんがされていますが、二箇所に渉って笠井潔さんの評論を引用されています。一箇所目は埴谷さんが『死霊』の完成に注いだ60年という年月は、ゲーテが『ファウスト』、プルーストが『失われた時を求めて』に費やした年月を凌駕するという趣旨のもので、二箇所目は「全宇宙に匹敵する特権的な<その一語>」を求めようとするマラルメ的願望を埴谷さんが持っていたというものです。

中井英夫全集[1]虚無への供物』(創元ライブラリ)の付録3にも、埴谷さんの『虚無への供物』の推薦文「文学の特別席」とならんで、齋藤さんの「塔晶夫へのオード」が並んでおり、齋藤さんが三島由紀夫澁澤龍彦埴谷雄高中井英夫らの文学を高く評価していることが伺えます。笠井さんは、『テロルの現象学』の時から、埴谷さんの評論についてテロリズムの難問に取り組み、それを克服しようとした思想ということで言及しており、その後も『死霊』について一冊の本の中に全世界の意味を封じ込めようとする試みとしてたびたび論及しており、齋藤さんの目を引くことになったのだと思います。
テロルの現象学―観念批判論序説

テロルの現象学―観念批判論序説

死霊(1) (講談社文芸文庫)

死霊(1) (講談社文芸文庫)

齋藤さんの文章を読みながら考えたことは、例えば笠井さんが『天使/黙示/薔薇』(矢吹駆初期三部作)と『テロルの現象学』だけを書いただけで夭折していれば、埴谷雄高中井英夫らの系譜に立つマイナーな作家として評価することも可能だったのかも知れませんが、現在のポジションはそれとは正反対の本格ミステリ界のインサイダーであり、理論を用いて本格ミステリ界を組織化しておこうという立場であり、権力として機能してしまっているということです。
天使/黙示/薔薇
天使・黙示・薔薇―笠井潔探偵小説集

天使・黙示・薔薇―笠井潔探偵小説集

吉本隆明さんの『悪人正機』(聞き手:糸井重里)に、次のようなくだりがあります。
悪人正機
悪人正機 (新潮文庫)

悪人正機 (新潮文庫)

「詩の世界って、たくさん賞があるんです。もういろいろあってさ。で、他のジャンルではそんなことはないんだけど、選者が自分たちでもらっちゃうんだよ。かわりばんこみたいにして。
この貧しさがかなわねえなって。」(新潮文庫版、P75参照のこと)
これを次のように、改ざんして読んでみましょう。
「ミステリの世界って、たくさん賞があるんです。もういろいろあってさ。詩のジャンルだけじゃないんですよ。賞を制定した人たちが自分たちでもらっちゃうんだよ。かわりぱんこみたいにして。
この卑劣さがかなわねぇなって。」