『智恵のエッセンス』

シャルザ・タシ・ギャルツェン著、ロポン・テンジン・ナムダク解説、森孝彦訳『智恵のエッセンス 〜ボン教のゾクチェンの教え』(春秋社)に関して。

ゾクチェンは、ボン教チベット密教ニンマ派に伝わる教えである。ゾクチェンの教えはインド仏教のなかに見出せないことから、中央アジアで生まれた教えであると考えられている。
本書では、ボン教に伝わるゾクチェンを紹介した本だが、ボン教には、3種類あり、本書はユンドゥン・ボンに属するテキストであるという。

(1)古代のボン……シャーマニズムに基づく儀礼や病気治療を中心とする原始宗教。
(2)新しいボン(再構成されたボン)……15世紀、仏教の諸学派に対抗して生まれたボン教。声明や儀礼に、仏教の要素を取り入れ、グル・パドマサンバァを崇拝するなど、ニンマ派との共通点が多い。
(3)ユンドゥン・ボン(永遠なるボン)……現在、優勢なボン教の流派。起源は、ブッダ・シャカムニよりも古く、1万8千年前、トンパ・シェンラプ・ミウォが、チベットの西方で初めた総合宗教であるとされる。カイラス山一帯にあったシャンシュン王国に広まり、その土地に根ざした宗教となったという。

本書では、二十世紀初頭に活動したボン教のラマ、シャルザ・タシ・ギャルツェンの生涯の説明から始まり、彼が書き残した『智恵のエッセンス(法身の心滴)』を紹介している。そのなかで、シャルザ・タシ・ギャルツェンは、加行、テクチューの修行、トゥーゲルの修行、ポワとバルドの修行について書いている。
『智恵のエッセンス(法身の心滴)』を丹念に見ていくと、仏教の概念も導入されているようだ。