倉橋由美子さんの『蛇/愛の陰画』

倉橋由美子さんの新刊『蛇/愛の陰画』(講談社文芸文庫)が出ました。

蛇・愛の陰画 (講談社文芸文庫)

蛇・愛の陰画 (講談社文芸文庫)

収録作品は、以下の通り。
「貝のなか」 (新潮文庫版 『バルタイ』に収録)
「蛇」 (新潮文庫版 『バルタイ』に収録)
「巨刹」 (新潮文庫版 『人間のない神』に収録)
「輪廻」 (新潮文庫版 『人間のない神』に収録)
「蠍たち」 (角川文庫版 『悪い夏』に収録。なお、単行本名は『蠍たち』)
「愛の陰画」 (角川文庫版 『悪い夏』に収録。なお、単行本名は『蠍たち』)
「宇宙人」 (新潮文庫版 『夢の中の街』に収録)
解説(小池真理子
年譜、著書目録(古屋美登里)

この文庫、前に『バルタイ/紅葉狩り』を出しており、前回『バルタイ』に収録されてなかった短編を今回の文庫に入れたりしているのですが、著者の死後、勝手な組み合わせにしてしまうのはどうなんでしょうか。
ただ、かつて、新潮文庫でほとんどの作品が読めたのに、今、文庫で読めるのは限られているのは嘆かわしいことです。
これらの短編、いずれも中学生のころ愛読していたのですが、久々に読み返してみると、やはり倉橋由美子は最高です。
日本の女性の作家では、倉橋由美子がぶっちぎりでトップの水準じゃないでしょうか。次点で来るのは、松浦理英子金井美恵子とか……でしょうか。21世紀の実存主義文学として、雨宮処凛に期待をかける部分はあるのですが、文学観が素朴すぎるところがあります。
倉橋由美子は、特に、今回収めたような初期の作品が、とても好きです。
今回の文庫には、「反リアリズム」と帯に書いてありました。
かつての新潮社の目録では、観念小説という言葉が連呼されていました。
つまり、最高にラディカルな書法で書かれているってことです。
でも、難しいってことはないです。中学生でも楽しめますから。
ただ、中学生の頃、気づかなかったことがいくつかあります。
「貝のなか」の主人公は、歯学部の女学生です。倉橋由美子も、歯科衛生士ですから、そういう設定になっているのでしょう。
ただ、倉橋由美子は、私小説を書くような文学的人間を軽蔑していましたから、この小説も私小説ではないです。
中学生のころ、見落としていたのは、この小説の性的な要素です。正確にいうと、性的なものへの嫌悪です。女学生ばかりのすし詰め状態の寮生活を、存在レベルでの嫌悪というかたちで表現しているのです。
時間をおいて読み返すというのも、新たな発見が発見があって、面白いです。小説の細かなディテールは、忘れている部分がありますし。