『超越意識の探求〜自己実現のための意識獲得法』

 コリン・ウィルソンの膨大な著作のなかで、おそらくは特に重要な部類に入るであろう『超越意識の探求〜自己実現のための意識獲得法』(学研)が刊行された。

超越意識の探求―自己実現のための意識獲得法

超越意識の探求―自己実現のための意識獲得法

 コリン・ウィルソンは、デビュー作『アウトサイダー』において、ロマン主義アウトサイダーを取り上げ、彼らの多くが宇宙を絶対肯定するほどの至福のヴィジョンを見ていること、にも関わらず、ヴィジョンは持続せず、あのヴィジョンは幻想だったのか、やはり人生は無意味であったのかと絶望し、自殺したり、破滅してゆく事例を描いた。コリン・ウイルソンによると、20世紀の実存主義もまた、現代版のロマン主義であるとし、人生は無意味で不条理というペシミズムであるという。
 コリン・ウィルソンのテーマは、最終的に破滅に至らない実存主義、つまり楽観的実存主義を実現することにある。そのためには、あの至福のヴィジョンを、意のままに呼び起こすことが必要ということになる。
 このテーマは、コリンのどの著作においても繰り返し現れるが、ひとつの転換点となったのは『心理学の新しい道(邦題:至高体験)』である。ここで、コリンはマズロー人間性心理学を取り上げ、マズローが病者ではなく、健康人の心理学を探求し、そこで絶頂体験という喜悦の体験を発見し、それを自己実現の最終段階に置いたことを評価した。しかしながら、マズローが、この絶頂体験は向こうから押し寄せてくるもので、自分でコントロールして引き起こすものではないと考えたことに納得がいかないとして、マズロー心理学ではその点がマズいとした。
 では、この不満点について、コリンはどのような結論を出したか。このあと、コリンはアウトサイダー・サイクルと呼ばれる新実存主義(それまでの実存主義はネクラだが、コリンの新実存主義はネアカたらんとするところが違う)の著作から離れ、オカルト・サイクルと呼ばれる著作を書くようになる。が、題材は異なっても、テーマは一貫しており、むしろ人間の潜在能力の探求が、オカルト領域にまで関心を広げたのだと解釈されるべきである。そこでコリンが見つけたもの、それは右脳と左脳の違いであり、X機能と呼ばれる未知の能力であり、意識レベルの発見であった。
 
レベル7 X機能
レベル6 魔法の意識
レベル5 春の朝の意識
レベル4 ごく普通の通常意識
レベル3 すべては無意味という意識
レベル2 単に意識しているだけ
レベル1 夢を見ているとき
レベル0 深い睡眠状態

 とすれば、レベル0から7までの機能がすでに人間に備わっているのであるなら、レベル0から7まで、いかにすればギア・チェンジが可能なのかということが問題となってくる。これについて、コリンはさまざまな著作で考えてきたが、本書はそれらの探求を総括し、実践的なマニュアルとして組み立てられている。これは、高次の意識に到達するための行法のガイド・ブックなのである。
 コリン・ウィルソンの立場からすれば、ジャック・デリダの哲学もまた、レベル3であり、ペシミズムの哲学ということになる。コリンは、ヴィットゲンシュタインやゲーデルにも言及しつつ、ゲーデルが示唆するものはより上位のメタシステムであると解釈する。後期構造主義や、論理実証主義の上位に来るメタシステムは、暗に自身のオプティシズムに満ちた新実存主義であると言っているように思える。
 訳者は松田アフラじゃなかった、松田和也でした。

※ところで、学研さん。
表紙に「デカルトからデリタにいたる哲学」とありますが、デリダですよ!
本の扉にも、駄目押しのようにデリタになってますが……。