藤野一友=中川彩子作品集 天使の緊縛
※mixiで書いた『藤野一友=中川彩子作品集 天使の緊縛』(河出書房新社)のレビューの再録です。
藤野一友の絵画は、フィリップ・K・ディック著、大瀧啓裕訳の『ヴァリス』(サンリオSF文庫)の表紙に使われた「抽象的な檻」、『聖なる侵入』(サンリオSF文庫)の表紙に使われた「遠望(眺望)」、『ティモシー・アーチャーの転生』(サンリオSF文庫)の表紙に使われた「卵を背負った天使」、コリン・ウィルソン著、大瀧啓裕訳の『SFと神秘主義』(サンリオ文庫)の表紙に使われた「未醒」で知った。サンリオの文庫がなくなったあと、ディックの「ヴァリス」三部作は、創元SF文庫からやはり藤野の表紙絵で復活し、藤野の「レダのアレルギー」を表紙に使用したP・K・ディック著、大瀧啓裕訳『虚空の眼』(創元SF文庫)がさらに加わった。

- 作者: フィリップ・K・ディック,Philip K Dick,大滝啓裕
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- 作者: フィリップ・K・ディック,大滝啓裕
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- 作者: 藤野一友
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藤野は、澁澤龍彦と交流があり、瀧口修造から評価を受けた日本のシュルレアリスム系の画家である。藤野一友の絵画の魅力は、潜在意識(夢、幻想)の世界を描きながら、自動筆記(シュルレアリスム的手法、お筆先)に走るわけでもなく、かといってアンフォルメル(無形象)や抽象に走るというわけでもなく、どこまでも明晰に細密ともいえる具象画の方法で追求したことにあるだろう。画法としては、夢の世界を具象的に描いたという点で、サルバドール・ダリに近いと思えるが、ダリが俗なる人間の本性を暴露する方向に向かったのに対し、藤野は反対に俗なるもののなかから、至高性へと向かっていく傾向があるように思える。
藤野は、ディックの文庫に使われたような芸術志向の絵画を描くときには「藤野一友」の名前を使い、『風俗草紙』や『裏窓』などに描くときには「中川彩子」の名前を使っており、本書はいわば裏の顔というべき「中川彩子」の作品も多く掲載し、藤野の全体像が浮かび上がるようにしている。「中川彩子」の絵は、掲載誌の関係もあって、縛られているか、拘束具をつけられているかなのだが、藤野の細密な画法は、ここでもモデルを背景から超リアルなオブジェとして浮かび上がらせてしまい、俗なるものを徹底して描きながらも、画家の超越的なるものへの嗜好を浮かび上がらせてしまうのである。
しかし、本書は「中川彩子」の作品を載せながらも、巻末の年譜は「藤野一友」を追い続けているだけである。これは不当な軽視といわねばならない。少なくとも「藤野一友」のシュルレアリスムを支えているのは、藤野の内なる「中川彩子」なのであるから。
※本書に掲載されていない「画家 中川彩子」関連の情報を載せておこう。なお、「作家 春川光彦」は、藤野の筆名である。
裏窓 昭和36年6月号
絵物語 バスティーユ牢獄の黒い処女 島本春雄 / 中川彩子
裏窓 昭和37年1月号
恐怖王イブラヒム 松平荘司 / 中川彩子
裏窓 昭和37年2月号
フランス乳房の塔 島本春雄 / 中川彩子
裏窓 昭和37年3月号
奇怪な演出 不貞現場の女 春川光彦
吸血鬼号の女囚 島本春雄 / 中川彩子
裏窓 昭和37年4月号
砂漠の恐怖王ハッサン 松平荘司 / 中川彩子
裏窓 昭和37年5月号
絵物語 女帝ゼノビアの敗北 松平荘司 / 中川彩子
裏窓 昭和37年6月号
フン族の暴雄アッチラ 松平荘司 / 中川彩子
裏窓 昭和37年7月号
中川彩子妖美画個展 中川彩子
裏窓 昭和37年8月号
雷帝イワン四世 松平荘司 / 中川彩子
裏窓 昭和37年9月号
密林の女王ムムタール 松平荘司 / 中川彩子
裏窓 昭和37年11月号
かわいいアンヌのぼうけん 松平荘司 / 中川彩子
裏窓 昭和37年12月号
洞穴の姫と片耳の悪魔 松平荘司 / 中川彩子
ぬげないスカート 締めつける愛情 春川光彦
裏窓 昭和38年1月号
絵物語 ハレウィンの歌う首 松平荘司 / 中川彩子
裏窓 昭和38年2月号
島原の子守唄 春川光彦
裏窓 昭和38年4月号
マドリーヌと黄金の靴 松平荘司 / 中川彩子
ある告白 舞踏会の贄 春川光彦
裏窓 昭和38年7月号
歴史絵物語 鞭のニコラス 春川光彦 / 中川彩子
裏窓 昭和38年8月号
絵物語 密林の美女 黒部恭治 / 中川彩子
裏窓 昭和38年9月号
シベリアの女囚 魔女アクーリカ 春川光彦
裏窓 昭和38年10月号
異端の城 三鬼俊 / 中川彩子
裏窓 昭和38年11月号
ビルマの首枷族 春川光彦
裏窓 昭和39年1月号
おつかれさま 春川光彦
絵物語 ミーノの貞操帯 井村錠 / 中川彩子
裏窓 昭和39年2月号
瀬沼めぐみの受難 春川光彦
裏窓 昭和39年12月号
スコリオーゼ女学院 春川光彦